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2025.10.22

統合型リゾート 大阪IRの可能性:アジアのゲーミング(カジノを含む)市場に見る大阪ベイエリアの商機-タイ王国・バンコク編

2025年に世界中の注目を集めた大阪・関西万博が閉幕し、夢洲を含む大阪ベイエリアは次なるステージへと移行しています。自治体、民間事業者が強力なイニシアチブで進める、日本初の統合型リゾート(以下、IR)の建設が本格化しています。開発の初期投資額は1兆5130億円となり、東京の麻布台ヒルズの総事業費は約6,400億円と比較しても、およそ2.5倍規模のメガプロジェクトです。大阪ベイエリアは今、万博で培われた国際的な信頼と技術を礎に、次世代の都市観光・エンターテインメント拠点として大きく変貌を遂げようとしています。

そんな中、2025年8月13日から15日にかけて、オンライン・オフラインを含むカジノを含むゲーミング産業をリードする国際会議「SPiCE Southeast Asia 2025」がタイ・バンコクで開催されました。第4回目となる本サミットは、東南アジアにおいて急成長するIR市場の最新動向を捉える絶好の機会であり、大阪で開業を予定するIR産業を考察するうえでも重要な場になると確信し、私は現地バンコクへ赴きました。


空港でGrabを見ると「東南アジアに来たな~」と実感します。補足ですが、タイ政府は、カジノを含む「統合型エンターテインメント複合施設」整備を目指し、2025年1月に法案「Entertainment Complex Bill」を閣議承認しました。しかしその後、国内での反対運動・世論の慎重姿勢、政権内部の連立離脱・首相の倫理調査など政治的混乱が重なり、同法案を7月初旬に政府が議会審議から取り下げる決定をしました。タイのIR構想は、観光立国を掲げる同国において大きな成長ドライバーとして位置付けられていましたが、政治・社会の反発のリスクが顕在化した格好になりました。

同様のリスク構図は、日本におけるIR制度のプロセスにも見られます。現在、全国で認定枠が2つ残されている状況のなかで、国が推進の意思を明確に示すことはもちろん、都道府県とIR運営会社が主体的に呼応し資金調達を含む準備を進める姿勢が不可欠です。加えて、地域企業が具体的な投資意欲を持ち、地域社会とともに構想を具体化していくことが前提条件となります。かつて横浜や和歌山で見られたように、政治的判断や地域合意の難しさが事業進展を左右することを踏まえれば、タイの事例は日本のIR産業を推進する点においても、他人事とは思えない急展開でした。


さて今回「SPiCE Southeast Asia 2025」の会場となったThe Landmark Bangkokは、ショッピングやビジネスの中心地であるスクンビット地区に位置する、客室数約399室の5つ星ラグジュアリーホテルです。BTS(バンコクの高架鉄道、通称スカイトレイン)ナナ駅から徒歩1〜2分という抜群のアクセス。館内には多彩な飲食店が並び、私は滞在中に3度レストランで個別ミーティングを行いましたが、高級感とカジュアルさの絶妙なバランスで、非常に利便性の高い中規模MICE施設であると感じました。

  • 名称:SPiCE Southeast Asia 2025
  • 主催:EVENTUS INTERNATIONAL LTD
  • URL:https://www.eventus-international.com/
  • 会期:2025年8月13–15日
  • 会場:The Landmark Bangkok(タイ、バンコク)
  • 内容:東南アジアのゲーミング(ギャンブル)産業の最新動向を共有する国際会議で、法制度改革、責任あるゲーミング、AI活用などをテーマに、業界リーダーが交流するイベント。
  • 参加者:約300人
  • 参加費:625ユーロ

イベント会場となった「ランドマークボールルーム」は、面積788㎡、最大収容人数800名を誇る多目的ホールで、国際会議や製品発表会にも適した格式ある空間でした。今回の「SPiCE Southeast Asia 2025」では、約15社程度の出展ブースが並ぶ展示エリアに隣接して、セッション会場が設けられ、さらにコーヒーブレイクを兼ねた商談スペースも併設されていました。全体としてコンパクトながら、ホテルならではの上質感があり、動線設計もよく練られており、参加者同士の自然な交流を促す構成となっていました。もちろんドリンク、スナック、果物は常備されており参加料に含まれています。

SPiCE Southeast Asia 2025では、アジアのゲーミング業界を牽引する企業が出展していました。スロット市場に向けて、ネクストレベルのゲーミング体験を提供しているBooming GamesやSoftGamingsなどの開発系に加え、世界をリードするスポーツデータプロバイダーLSports。本人確認(KYC)及びマネーロンダリング対策(AML)のプラットフォームを提供するSumsub。また多様なサイバー攻撃の脅威から保護するための統合プラットフォームを持つCloudflareなどが出展。規制と技術革新が複雑に交差する東南アジア市場において、ある意味象徴的な出展構成であったと思います。


マカオやフィリピンをはじめ、アジア各国のカジノ規制は国ごとに運用が大きく異なり「変化が早い」「予測が難しい」といった特徴があります。SPiCE Southeast Asia 2025では、多くのスピーカーが登壇しましたが、地域特有の状況を踏まえた実践的な内容が展開されるのは必然なのでしょう。「カジノ合法化の経済的影響」「断片化した環境における責任あるゲーミング」「合法化が違法ゲーミングとどのように戦うか」など、アジアのゲーミング市場における制度・文化・経済の交錯を実践的に掘り下げる議論が展開されました。業界のレジェンドの方々による議論は日本では得難い内容ばかりで、濃密な学びとなりました。

最終日の3日目の講演者は、Riaan Van Rooyen氏でした。ホスピタリティとギャンブル業界で国際的に実績を積んだエグゼクティブです。彼は言います。「要するに、成功する統合型リゾートには次の三つの柱が必要なんだ。 1.ファミリーエンターテインメント(家族向け娯楽)であるべきだ。家族向けのオファーがなければ、滞在時間は短くなる。全員を満足させることが大切だ。2.ホスピタリティ(宿泊・飲食)こそが収益基盤なんだ。ゲーミングとは明確に分離させて、来場者への配慮のある設計が必要になる。3.ゲーミング(カジノ)場の広さは利益とイコールではない。テーブルやマシンの数よりも、稼働率・監視体制・スタッフ教育など運営の質が利益を左右する。カジノは体験価値と信頼で収益を生み出す時代へと転換している。この三つが調和しなければ持続可能ではない。」


さて、ここからSPiCE Southeast Asia 2025で学んだ知識を大阪IRに当てはめて考えてみます。大阪IRは、Riaan氏の「三つの柱」の理論を体現するIRと言えそうです。まず水辺を活かしたパークゾーンや文化・展示コンテンツが整備され、家族で滞在できる環境を重視。次にホスピタリティでは、2,500室規模のホテル群、国際会議場、ショッピング&ダイニングを充実させマスマーケットを引き付ける構成。そしてカジノは全体の約8割の収益を支える一方、施設面積を抑えた。開業3年目のカジノ来場者は1,610万人を見込み、その3分の2が日本人が占めるというデータも示すように、国内市場を軸に、観光・文化・エンタメを有機的に結ぶ“持続型リゾート”を目指す姿勢が浮かび上がります。



大阪IRのカジノ収益モデルは、近年のマカオやシンガポールに倣い、ハイローラーのVIP層に依存するのではなく、幅広い一般客(マスマーケット)を中心に設計されています。来場者1人あたりの平均プレイ額は約2.6万円と試算されており、日本内外の観光、ビジネスMICEやエンタメ目的の顧客も気軽に楽しめる価格帯だと言えるでしょう。つまりカジノは「誰もが楽しめるエンターテインメント」として多くの人が利用し、その積み重ねが年間約4,200億円という大きな収益を支える現実的な仕組みになっているのです。



今回のタイ出張で改めて感じたのは、IRの成功には経済的な効果だけでなく「責任あるゲーミング(Responsible Gaming)」への理解と実践が欠かせないということです。現在、日本で問題になっているオンラインカジノは、法的な枠組みの外にあり、利用者保護や社会への還元といった仕組みが存在しません。だからこそ、国や自治体の監督のもとで運営される大阪IRのように責任あるゲーミングの理念を基盤とした制度設計が重要であることがわかります。大阪IRは、日本の新しい観光・エンタメ産業として期待されますが、誰もが気軽に楽しめる開かれたエンタメ空間だからこそ、依存症対策やギャンブルに対す適切な判断力をつける教育啓発など、利用者の健全な楽しみ方を支える文化を育てることが持続可能なエンターテインメント産業の在り方だと感じます。



作成者:井上雄二(Yuji Inoue)
アジア太平洋トレードセンター株式会社(ATC)
オフィス事業部マネージャー IR調整担当
y-inoue@atc-co.com
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📘 参考リンク
👉 SPiCE Southeast Asia 公式サイト
👉 統合型リゾート OSAKA IR(大阪府・市)
👉 大阪府情報公開審査会答申〔IR区域来訪者等試算資料非公開決定審査請求事案〕(答申日:令和7年1月9日)
👉
IR*ゲーミング学会 公式サイト